「利他」を唱えた会社は危うくなる──給食サービス企業で見続けた「人形化経営」の記録【2】

社会と向き合う

美しい言葉が増えていった

給食サービス、ケータリング、食品製造。
薄利で、受託で、価格決定権がない業界。

その中で働いていると、同じ言葉が、やたらと社内に溢れ始める。

  • 利他の精神
  • 社会的使命
  • 公共性
  • 我慢と忍耐

最初は、悪い気はしなかった。

「必要とされる仕事だ」

「社会を支えている」

だが、だんだんと違和感が強くなっていった。
なぜ業績が厳しくなっても、言葉だけを美しくするのか。

稲盛和夫の言葉が、都合よく使われ始めた

多くの会社では、稲盛和夫氏の言葉は好んで引用される。
「利他」「心を高める」「動機善なりや」。

だが、内部にいて気づいたことがある。
稲盛和夫は、精神論“だけ”で会社をやった人ではない。

むしろ、彼が最初にやったのは、

  • 高付加価値事業を選ぶ
  • 技術優位性を確立する
  • 価格決定権を握る
  • 高粗利の構造を作る

そういった内側の体力を徹底的に整えてから、理念を語っていた。
ところがこの会社で使われる稲盛語録は、後半の「美しい部分」だけが切り取られていた。

内的要因が空っぽだという事実

給食サービス企業の実態は、こうだ。

  • 粗利は数%
  • 価格は顧客が決める
  • 契約は簡単に切れない
  • 税制は一方的に変わる

つまり、自分たちでコントロールできる要素がほとんどない。

これは思想以前の問題だ。

  • 利益が出る構造か
  • 価格を自分で決められるか
  • 撤退や転換を選べるか
  • キャッシュ耐性があるか

こうした「内的要因」が、ほぼ空っぽの状態だった。

それでも会社は「闘っているつもり」になる

内側が弱いと、人は外を見て闘おうとする。

  • 原材料高 → 耐える
  • 人件費上昇 → 耐える
  • 税制変更 → 耐える

だが、これは闘争ではなかった。
ただ立って殴られているだけだった。

それを、

  • 使命
  • 利他
  • 社会貢献

という言葉で包み込む。
そうすると、不思議なことが起きる。
「耐えること」が、美徳に変わる。

「利他」が免罪符になった瞬間

この会社では、利他という言葉の使われ方に違和感が残る。

  • 値上げしない理由になる
  • 撤退しない理由になる
  • 赤字を続ける正当化になる

そして、最も危険だったのはここだ。
数字の話をすると、

「それは利他的か?」

「社会的に正しいのか?」

という返しが来る。
経営判断が、道徳の問題にすり替わる。

議論は終わる。
誰も反論できなくなる。

管理職が静かに“人形”になっていった

構造的に決められないこの会社が、やったことは、管理職を増やす。

  • 責任は渡す
  • 決定権は渡さない

管理職は、

  • 上の方針を下に伝え
  • 現場が崩れたら謝り
  • 数字が悪ければ叱られる

だが、価格も、契約も、戦略も決められない。
彼らは経営者ではない。
責任を引き受けるための装置だった。

トップは、

  • 理念を語り
  • 失敗は管理の問題にし
  • 成功は利他のおかげにする

安全な場所に立ち続ける。

消費税は、「人形」を締め殺す

給食サービス企業が苦しいのは、消費税そのものが、この業態に構造的に合っていない。
理由は単純だ。
人件費は、消費税の控除対象にならない。

仕入や設備投資にかかった消費税は控除できる。
だが、人に払う金だけは戻ってこない。

税率が何%であっても、この原理は変わらない。

高単価の「人形」が、制度上もっとも重い理由

給食サービス業は、極端に人件費依存の産業だ。
本来なら、その人件費は価値を生む場所に使われるべきだ。

だが、人形化した組織では逆になる。

  • 意思決定しない管理職
  • 理念を伝えるだけの役職
  • 調整だけで一日が終わる人間

彼らは付加価値を生まない。
それでいて、高単価だ。

しかも、そのコストは、消費税で一切相殺できない。
高単価の人形は、制度上「逃げ場のない固定費」になる。

保育園という「最速ルート」を、自ら封印してきた業界

保育園や幼稚園給食は、実はとてつもない資産を持っている。
保育園や幼稚園には、

  • 共働き世帯の親がいる
  • 平日ほぼ毎日、必ず接点がある
  • 朝夕、決まった時間に顔を合わせる
  • 食・健康・安全への関心が極端に高い

時間も余裕もない意思決定層に、最速でアクセスできる導線だ。
だが、この会社はこのルートを、自ら封印してきた。

  • 公共性があるから
  • 中立であるべきだから
  • 営利的に見えるから

そして最後に、「それは利他的ではない」という言葉で、すべてが止まる。
だが本来、園で培った食の安全性やノウハウは、忙しい親の生活を直接支えられる。

それを価値に変えられなかったのは、利他の問題ではない。
決断できない組織の問題だ。

生きられる最速ルートは、幻になった。

軽減税率の影響

2019年10月の食品8%軽減税率が導入された。
これでこの会社の外食・ケータリング部門の体力が確実に削られた。

  • 仕入の消費税控除額が減る
  • 売上の消費税はそのまま
  • 差額は自腹

2021〜2023年にかけて、赤字に沈んだ。

重要なのは、軽減税率の影響が露呈したのに構造を変えなかったことだ。
この状態で、もし食料品軽減税率が0%になったら。

  • 吸収余力はない
  • 内部留保もない
  • 値上げもできない

即、詰む。

それでも最後に出てくる言葉

おそらく、最後にトップが言うのはこれだ。

「国の制度が悪い」

「想定外だった」

だが、内部にいた人間から見ると、それは違う。
想定しないことを、選び続けてきただけだ。

稲盛和夫を本当に尊敬するなら

稲盛和夫を引用するなら、
本当に真似るべきはここだ。

  • 勝てない事業はやらない
  • 勝てない土俵から降りる
  • 勝てる土俵を作る
  • 価格決定権を取りに行く

思想は、内的要因を整えた後でしか機能しない。

祈りに変わった経営

内側が空っぽのまま、外的要因と闘うことはできない。

それは経営ではない。
祈りに近い。

もしあなたが、

  • 利他が空虚に聞こえる
  • 理念が怖く感じる
  • 「この会社、危ない」と直感している

なら、その感覚は正しい。
理念では税金は払えない。

思想ではキャッシュは生まれない。
それを見抜いてしまった人間は、もうその船に安心して乗れない。

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