美しい言葉が増えていった
給食サービス、ケータリング、食品製造。
薄利で、受託で、価格決定権がない業界。
その中で働いていると、同じ言葉が、やたらと社内に溢れ始める。
- 利他の精神
- 社会的使命
- 公共性
- 我慢と忍耐
最初は、悪い気はしなかった。
「必要とされる仕事だ」
「社会を支えている」
だが、だんだんと違和感が強くなっていった。
なぜ業績が厳しくなっても、言葉だけを美しくするのか。
稲盛和夫の言葉が、都合よく使われ始めた
多くの会社では、稲盛和夫氏の言葉は好んで引用される。
「利他」「心を高める」「動機善なりや」。
だが、内部にいて気づいたことがある。
稲盛和夫は、精神論“だけ”で会社をやった人ではない。
むしろ、彼が最初にやったのは、
- 高付加価値事業を選ぶ
- 技術優位性を確立する
- 価格決定権を握る
- 高粗利の構造を作る
そういった内側の体力を徹底的に整えてから、理念を語っていた。
ところがこの会社で使われる稲盛語録は、後半の「美しい部分」だけが切り取られていた。
内的要因が空っぽだという事実
給食サービス企業の実態は、こうだ。
- 粗利は数%
- 価格は顧客が決める
- 契約は簡単に切れない
- 税制は一方的に変わる
つまり、自分たちでコントロールできる要素がほとんどない。
これは思想以前の問題だ。
- 利益が出る構造か
- 価格を自分で決められるか
- 撤退や転換を選べるか
- キャッシュ耐性があるか
こうした「内的要因」が、ほぼ空っぽの状態だった。
それでも会社は「闘っているつもり」になる
内側が弱いと、人は外を見て闘おうとする。
- 原材料高 → 耐える
- 人件費上昇 → 耐える
- 税制変更 → 耐える
だが、これは闘争ではなかった。
ただ立って殴られているだけだった。
それを、
- 使命
- 利他
- 社会貢献
という言葉で包み込む。
そうすると、不思議なことが起きる。
「耐えること」が、美徳に変わる。
「利他」が免罪符になった瞬間
この会社では、利他という言葉の使われ方に違和感が残る。
- 値上げしない理由になる
- 撤退しない理由になる
- 赤字を続ける正当化になる
そして、最も危険だったのはここだ。
数字の話をすると、
「それは利他的か?」
「社会的に正しいのか?」
という返しが来る。
経営判断が、道徳の問題にすり替わる。
議論は終わる。
誰も反論できなくなる。
管理職が静かに“人形”になっていった
構造的に決められないこの会社が、やったことは、管理職を増やす。
- 責任は渡す
- 決定権は渡さない
管理職は、
- 上の方針を下に伝え
- 現場が崩れたら謝り
- 数字が悪ければ叱られる
だが、価格も、契約も、戦略も決められない。
彼らは経営者ではない。
責任を引き受けるための装置だった。
トップは、
- 理念を語り
- 失敗は管理の問題にし
- 成功は利他のおかげにする
安全な場所に立ち続ける。
消費税は、「人形」を締め殺す
給食サービス企業が苦しいのは、消費税そのものが、この業態に構造的に合っていない。
理由は単純だ。
人件費は、消費税の控除対象にならない。
仕入や設備投資にかかった消費税は控除できる。
だが、人に払う金だけは戻ってこない。
税率が何%であっても、この原理は変わらない。

高単価の「人形」が、制度上もっとも重い理由
給食サービス業は、極端に人件費依存の産業だ。
本来なら、その人件費は価値を生む場所に使われるべきだ。
だが、人形化した組織では逆になる。
- 意思決定しない管理職
- 理念を伝えるだけの役職
- 調整だけで一日が終わる人間
彼らは付加価値を生まない。
それでいて、高単価だ。
しかも、そのコストは、消費税で一切相殺できない。
高単価の人形は、制度上「逃げ場のない固定費」になる。
保育園という「最速ルート」を、自ら封印してきた業界
保育園や幼稚園給食は、実はとてつもない資産を持っている。
保育園や幼稚園には、
- 共働き世帯の親がいる
- 平日ほぼ毎日、必ず接点がある
- 朝夕、決まった時間に顔を合わせる
- 食・健康・安全への関心が極端に高い
時間も余裕もない意思決定層に、最速でアクセスできる導線だ。
だが、この会社はこのルートを、自ら封印してきた。
- 公共性があるから
- 中立であるべきだから
- 営利的に見えるから
そして最後に、「それは利他的ではない」という言葉で、すべてが止まる。
だが本来、園で培った食の安全性やノウハウは、忙しい親の生活を直接支えられる。
それを価値に変えられなかったのは、利他の問題ではない。
決断できない組織の問題だ。
生きられる最速ルートは、幻になった。
軽減税率の影響
2019年10月の食品8%軽減税率が導入された。
これでこの会社の外食・ケータリング部門の体力が確実に削られた。
- 仕入の消費税控除額が減る
- 売上の消費税はそのまま
- 差額は自腹
2021〜2023年にかけて、赤字に沈んだ。
重要なのは、軽減税率の影響が露呈したのに構造を変えなかったことだ。
この状態で、もし食料品軽減税率が0%になったら。
- 吸収余力はない
- 内部留保もない
- 値上げもできない
即、詰む。
それでも最後に出てくる言葉
おそらく、最後にトップが言うのはこれだ。
「国の制度が悪い」
「想定外だった」
だが、内部にいた人間から見ると、それは違う。
想定しないことを、選び続けてきただけだ。
稲盛和夫を本当に尊敬するなら
稲盛和夫を引用するなら、
本当に真似るべきはここだ。
- 勝てない事業はやらない
- 勝てない土俵から降りる
- 勝てる土俵を作る
- 価格決定権を取りに行く
思想は、内的要因を整えた後でしか機能しない。
祈りに変わった経営
内側が空っぽのまま、外的要因と闘うことはできない。
それは経営ではない。
祈りに近い。
もしあなたが、
- 利他が空虚に聞こえる
- 理念が怖く感じる
- 「この会社、危ない」と直感している
なら、その感覚は正しい。
理念では税金は払えない。
思想ではキャッシュは生まれない。
それを見抜いてしまった人間は、もうその船に安心して乗れない。






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