※この記事では、「色」や「空」といった『色即是空』の概念を扱っています。
※「色」と「空」、そして『色即是空』の意味をより深く知りたい方は、以下の記事で詳しく解説しています。
──「つまらない」の中に宿る問い
「銀行の仕事、ほんとつまんないよ。
毎日ただ確認して打ち込むだけで、何も面白くない」
そうつぶやいたのは、義理の妹だった。
彼女は銀行で入出金の確認業務をしている。毎日、伝票とデータを突き合わせ、異常がないかを確認し、正確に記録する。
彼女の言うとおり、その仕事はとても地味で、変化が少なくて、ルーティンに満ちている。
まるで、毎日同じ空を眺めているようなものだ。
けれど私は、その「つまらない」という言葉に、何かとても大切なものが潜んでいる気がした。
「つまらない」という問い
「つまらない」と感じる瞬間、それは心が何かを問いかけている証だと思う。
「私は、何のためにこれをやっているのか」
「この作業に、意味はあるのか」
「毎日がこんなふうでいいのか」
その問いは、一見すれば“空虚”だ。
だけど、その空虚こそが「空(くう)」なのだと、ふと思った。
空を見つめるとき、色が立ち上がる
仏教にある言葉──「色即是空、空即是色」
この世にあるすべての“かたち”あるものは空であり、
その空を見つめたとき、逆に“かたち”が立ち上がってくる。
つまり、「意味がある」と信じていたものは、もともと“空”で、
「意味がない」と感じたものも、見つめ続ければ“色”になる。
義理の妹が抱いた「つまらない」という思い。
それは、世界が空に戻ろうとする瞬間だったのかもしれない。
そして彼女がその問いと真摯に向き合ったとき、
その空の中から、新しい色が立ち上がる。
お金の流れは、血液のようなもの
「でもさ、お金の流れって、この国の血液みたいなもんだよね」
彼女の話を聞きながら、私はそう返した。
銀行が取り扱っているのは、単なる数字じゃない。
人が暮らし、働き、動くことで生まれる“流れ”だ。
その流れを正しく記録し、異常がないかを見張るというのは、
言うなればこの国の“心拍”を感じ取ることでもある。
誰も気づかないようなミスや異常にいち早く気づける彼女たちは、
血流に起きたほんの小さな詰まりを見つける医者のようなものだ。
数字の奥にある物語
「−38,000円」──それは、誰かの引っ越し資金かもしれない。
「+15,000円」──アルバイトの初任給かもしれない。
「+3,000,000円」──会社の設備投資の第一歩かもしれない。
彼女が見ているのは、数字という“色”ではなく、
その裏にある暮らしという“空”なのかもしれない。
そのことに気づいたとき、つまらなかった作業が、
誰かの人生とつながっていると感じられるようになる。
そして、それが“面白さ”に変わる。
空が色に変わる瞬間だ。
仕事の意味は、自分の視点の中にある
「私は何のためにこの仕事をしているのか」
その問いがあるからこそ、人は目を開き続けられる。
意味のない繰り返しだと思っていたことに、
視点を変えただけで、血の通った物語が宿る。
それは誰かに与えられるものではなく、
自分で見つけ出す“意味”なのだ。
つまり──
「つまらない」は“終わり”じゃない。
「つまらない」から始まる“問い”が、“色”を生み出すのだ。
空に咲く問い
義理の妹のつぶやきは、まるで空を見上げるような問いだった。
雲ひとつない空の日に、そこに何を感じるか。
空っぽに見えるその空の中に、どんな色を見つけられるか。
意味があると思うからあるのではなく、
意味がないと思ったところから始まるのが「問い」なのだ。
そして問い続ける人のまなざしの中に、
この世界は、少しずつ色を取り戻していくのかもしれない。








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