徳を積むとは、「空」を扱えるようになること

自分と向き合う

※この記事では、「色」や「空」といった『色即是空』の概念を扱っています。
※「色」と「空」、そして『色即是空』の意味をより深く知りたい方は、以下の記事で詳しく解説しています。

「徳を積む」とは何か

「徳を積む」と聞いて、あなたはどんなイメージを抱くだろうか。
困っている人を助けること? 人に優しくすること? 見返りを求めず善をなすこと?

もちろん、そうした具体的な行為も大切だ。けれど、それらはあくまで表面的な「色」にすぎない。
その根底には、もっと本質的な「空」があるのではないか──
私はそう感じている。

空とは「思考」や「関係性」

空とは、「無」や「空虚」を意味するものではない。
むしろ、それは「思考」や「関係性」といった、目に見えないけれど、確実に存在している世界の構造そのものだ。

思考とは、目に見えないけれど、私たちの行動や言葉の土台となっている。
関係性もまた、空気のように透明で、けれども強く、私たちの在り方を形作る。

たとえば、誰かの何気ないひと言に傷ついたり、反対に救われたりするのは、
そこに空(=文脈、関係性、沈黙、背景)があるからだ。

この「空」を読み取る力、あるいは操作する力を持っているかどうかで、人間の深度は変わる。
空を理解できる人は、他者の痛みや迷い、沈黙の奥にある思いを感じ取ることができる。
一方で、空を扱えない人は、表面に見えるもの(色)だけを追い、言葉尻や行動だけで他者を裁いてしまう。

色とは「目に見える物」

空に対して、「色」とは、目に見える物体、具体的な世界のことを指す。
身体、建物、物質、データ、行動、数値……こうした「実体あるもの」が色だ。

私たちは、日常的に「色」にばかり触れている。
SNSで誰かの発言を目にし、商品を買い、数値で評価され、地位や年収で比較される。
可視化されたもの、数値化されたもの、物理的に存在するもの──それらを「現実」と呼び、それだけを信じるようにさえなっている。

けれども、どんな色も、空の上に成立している。
意味のない思考や関係性の上に、物理的な色だけを積み重ねることはできない。
それをやろうとすれば、歪みが生まれ、苦しみが生まれ、やがて虚しさが襲ってくる。

空を扱える人は、色も豊かに扱える

空を多く扱える人は、実は色も自在に操れる。
逆に、空をうまく扱えない人は、色にも翻弄されやすい。

どういうことか。

例えば、人間関係で言えば──
空を理解できる人は、相手のちょっとした表情や間合い、沈黙に宿る意味を感じ取ることができる。
「この人、いまこう言ってるけど、本当はこういう気持ちがあるんじゃないかな?」と想像できる。
だからこそ、言葉を選び、タイミングを見極め、気持ちを大切にしながら関係を築ける。

ビジネスでも同じだ。
色(商品、売上、データ)ばかりを追う人は、短期的な結果は出せても、空(信頼、理念、物語)を築けなければ、長くは続かない。

徳とは、他者の空を取り込むこと

ここで、あらためて「徳」とは何かを考える。
それは、他者の空を、想像し、受け取り、丸ごと取り込む力ではないだろうか。

自分と全く違う考え方、違う文化、違う歴史背景を持った人。
あるいは、自分がかつて否定したもの、嫌悪していたもの。
そうした異なる「空」に触れ、想像し、それを拒絶せずに自分の中に抱え込む。

これは、簡単なようでとても難しい。
だからこそ、そこに「徳」が必要なのだ。

徳とは、ただ道徳的であることではない。
精神的なキャパシティ、空間処理能力のようなものであり、
他者の宇宙を自分の中に取り込むための、内的な力だ。

そのために、自分の「軸」が必要

ただし、空を取り込めば取り込むほど、自分がブレてしまうこともある。
だからこそ、空を扱うためには、自分の「軸」が必要だ。

軸とは、自分の内にある重心。
どんなに外の世界が揺れ動いても、そこに立っていられる自分だけの土台。
それは、日々の習慣や価値観、生き方の中で、少しずつ育てていくものだ。

自分の軸があればこそ、多様な空に触れても、溺れることなく、柔らかく包み込めるようになる。
まるで、大きな器のように。

現代は「空」が不足している時代

今の社会は、色に満ちすぎている。
目に見えるものが重視され、スピードと効率が求められ、言葉や思想はすぐに断罪される。

けれど、私たちは本来、「空」の中に生きているはずだった。

静けさの中で生まれる言葉、
関係性の中に漂う信頼、
思考の奥に宿る問い。

こうした「空」を育てることこそ、今の時代に必要な「徳」ではないか。

まとめ:空を広げることが、世界を深めること

徳を積むとは、空を扱えるようになること。
空を扱えるようになれば、色も自在に扱えるようになる。
空を広げれば、自分の内なる宇宙も、他者の宇宙も、もっと豊かに、もっとやさしく包み込める。

拒絶ではなく受容へ。
断絶ではなく関係性へ。
正しさではなく、想像力へ。

徳とは、空を広げ、色を生かすための、生きる技術なのかもしれない。

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