実体を持つ者が不利になる税制
消費税は「中立的な税制」だと言われてきた。
所得に関係なく、消費に広く薄くかかる。
一見すると公平で、合理的な仕組みに見える。
だが、この税制が長期的に社会へ与えてきた影響を丁寧に追っていくと、ある一貫した方向性が浮かび上がる。
それは、
実体を持たない者が有利になり、
実体を持つ者ほど重荷を背負わされる社会
という構図である。
これは思想の問題ではない。
善悪の話でもない。
制度に対して、人と企業が合理的に適応した結果だ。
消費税が「罰するもの」「報いるもの」
消費税の性質は、驚くほど素直だ。
- 設備・建物・機械を買えば即座に課税される
- 維持・管理・更新にも税がかかる
- 売上で必ず回収できるとは限らない
- 非課税・0%課税が増えるほど、回収は「還付」に依存する
つまり消費税は、
- 重いもの
- 固定されたもの
- 長期に責任を伴うもの
を、徹底して嫌う。
逆に言えば、
- 流動的
- 契約で切れる
- 実体を持たない
ものほど、税の摩擦を受けにくい。
ここで報われるのは、
- ブランド
- 企画
- 知的財産
- 契約関係
- プラットフォーム
といった無形の価値だ。
この性質は、企業行動を確実に変えてきた。
企業で起きていること①:ファブレス化は思想ではない
製造業では、すでに答えが出ている。
- 工場を持たない
- 設備投資は外注する
- 実体資産は下請けに集約する
- 元請は設計・販売・ブランドに集中する
これは技術論ではない。
「日本企業が怠けた」話でもない。
税制への、きわめて合理的な適応行動だ。
消費税は、
モノを作る者よりも、
仕組みを持つ者を報いる。
企業で起きていること②:人を雇うより、派遣にする方が得
さらに重要なのが、人の扱いだ。
正社員
→ 人件費
→ 消費税の控除対象にならない
派遣社員
→ 仕入
→ 消費税の仕入税額控除ができる
これは解釈ではない。制度上そうなっている。
企業から見れば、
- 人を内側で抱える → 税務上、不利
- 人を外から調達する → 税務上、有利
という構図になる。
さらに派遣であれば、
- 社会保険の長期責任を負わなくてよい
- 解雇・配置転換リスクを外注できる
- 人を「固定資産」にしなくて済む
消費税が嫌う性質を、すべて外に逃がせる。
派遣が増えるのは倫理の崩壊ではない。
計算の結果だ。
人が「原価」になった社会
かつて人は、
- 組織の蓄積
- 技術の継承
- 次世代の担い手
だった。
だが消費税のロジックでは、
- 正社員=控除できないコスト
- 派遣=控除できる仕入
という評価になる。
結果、
人を育てる企業ほど、制度的に損をする。
ここで起きているのは経営者のモラル低下ではない。
人を大切にすると負ける制度設計だ。

個人に置き換えると、何が起きるか
この構造を個人に置き換える。
個人にとって最大の「実体資産」は何か。
それは、子どもである。
子どもは、
- 初期コストが大きい
- 維持費が長期にわたる
- 手放せない
- キャッシュフローを圧迫する
- 税制上の評価は小さい
消費税が嫌う性質を、すべて備えている。
つまり、
子どもを持つことは、
消費税社会において最も不利な投資になりやすい。
住宅という、もう一つの「実体」
住宅も同じだ。
- 初期投資が極めて大きい
- ローンという長期債務を伴う
- 維持・修繕・更新が続く
- 流動性が低い
- 所有した瞬間から固定資産税がかかる
合理的になるのは、
- 家を買わない
- 賃貸で身軽に暮らす
- 場所や職を固定しない
という選択だ。
正社員・住宅・子どもは、同じ線上にある
- 正社員
- 住宅
- 子ども
これらはすべて、
長期・固定・不可逆な責任
という共通点を持つ。
そして現在の税制は、それらを持たない生き方を静かに報酬している。
企業は軽くなり、個人だけが重くなる。
消費税は「人間関係」にも課税する
消費税は取引のたびに課税される。
つまり、人と人との関係性そのものにコストを発生させる。
贈与、助け合い、共同購入、地域活動。
それらが経済化されるほど、摩擦は増える。
結果、
- 身軽で
- 固定せず
- 孤立した
生き方が制度的に合理化される。
企業のファブレス化と同じ論理だ。
軽減税率が問題を解決しない理由
軽減税率は弱者配慮の顔をしている。
だが実際には、
- 制度を複雑化させ
- 負担の所在を見えなくし
- 運用コストだけを増やす
本質は変わらない。
長期責任を負う行動が損をする構造は、そのままだ。
少子化は「意識の変化」ではない
少子化はよくこう説明される。
- 若者の価値観が変わった
- 欲がなくなった
- 結婚観が多様化した
だが現実は逆だ。
人々は制度に対して極めて合理的に行動している。
- 身軽でいるほど有利
- 固定費を持たないほど安全
- 長期責任を負わないほど自由
税制が何十年も出し続けてきたメッセージの、忠実な結果が今の少子化だ。
かつては、なぜ成立していたのか
高度成長期からバブル期までは違った。
- 所得税中心
- 消費税は軽い、あるいは存在しない
- 扶養控除が大きい
- 成長と再投資が報われた
つまり、
「持つ者が報われる構造」が、かろうじて残っていた。
問い直すべきは哲学だ
消費税は、静かだが強力なメッセージを発している。
持つな。身軽でいろ。長期責任を負うな。
企業も個人も、その声に従っているだけだ。
もし本当に、
- 子どもを持つこと
- 家を持ち、地域に根を下ろすこと
が社会に必要だと考えるなら、それらが合理的になる制度を用意しなければならない。
少子化対策とは、給付やスローガンではない。
税制の哲学を問い直すことから始まる。





