75kgからの旅──色と空が教えてくれた走る意味

自分と向き合う

※この記事では、「色」や「空」といった『色即是空』の概念を扱っています。
※「色」と「空」、そして『色即是空』の意味をより深く知りたい方は、以下の記事で詳しく解説しています。

大学生のころ、体重が教えてくれた「空」の存在

大学四年生のころ、私は75kgまで体重が増えていた。
身長は166〜167cm、BMIにすると27。
つまり、肥満だった。

まさに脂肪という「色」が、重たくのしかかっていた。

なぜ太っていたのか──。
今ならわかる。
あの頃の私は、満たされない「空」を抱えていたのだ。

良好な人間関係が築けていたならば、少しは埋まっていたかもしれない。
けれど当時、私は一人暮らしだった。
空洞を抱えた心は、実家のお米という「色」で埋めようとした。

茶碗に盛られた白い粒は、一瞬だけ虚しさを満たしてくれる。
けれどやがて、それは体重という「色」となり、煩悩のように積み重なっていった。

走り始めるきっかけ

「24歳になると、体のメンテナンスをしていないと、ガタッとくるぞ!」

研究室のポスドクが言ったその一言が、私を走り出させた。
心の奥で、何かがカチリと音を立てた。直感が、背中を押したのだ。

毎日10km走ることを決めた。
しかし最初は、思うように走れない。
7kmを過ぎるころには足が止まり、残り2〜3kmはとぼとぼ歩くしかなかった。

それでも、胸にひとつだけの想いを刻んでいた。

「どんなになっても、家に帰る」

その一点だけを支えに、汗だくの身体を引きずるように、前へと進んだ。

色に映すことで、空が動き出す

やがて私は、走った距離や体重を記録し始めた。
GPS付きのランニングウォッチを身につけ、
WiFi対応の体重計にのる。
デジタルの力で、見えない努力を「色」として目に見える形にしたのだ。

すると、少しずつ体重は減り始めた。
しかし、60kgの壁は厚かった。
2〜3ヶ月、60〜63kgを行ったり来たり。
停滞という「色」に足を取られ、心は再び重くなっていった。

そんなとき、思いがけず胃腸炎にかかる。
身体は弱り、けれどその出来事が、60kgの壁を一気に超えさせた。
そして流れるように54kgまで体重は落ち、兄には「病気なんじゃないか」と心配されるほどになった。

色が怖くなるとき

ただ、体重を減らすことだけを目標にしていた頃、私は次第に体重計が怖くなっていった。

数字が順調に下がっているときは平気。
けれど停滞しているとき、ほんの少し増えたとき、目に見える「体重という色」が恐怖に変わった。

色が私を支配していた。
私は「色」にすがりながらも、「色」に怯えていたのだ。

目標を変える

だから、私は走る意味を変えた。
体重のために走るのではなく、マラソンのタイムを縮めるために走ろうと決めたのだ。

数字の上下に縛られる代わりに、風を切る感覚や、ゴールへと近づく鼓動に心を委ねた。
そこには、もうひとつの関係性──「空」が生まれた。
走る行為そのものが、私を満たしていった。

色と空を通して自分と向き合う

体重という「色」を通じて、私は自分の気持ち──「空」と向き合った。
空を無視しようとすれば、色は煩悩のように重くなる。
けれど、空を抱きしめれば、色は道しるべに変わる。

走るたびに、私はその言葉の意味を、足裏から心臓へ、そして全身へと響かせていった。

体重という煩悩を抱えていた私が、やがて「走る」ことを通して、
関係性──空──を知るようになった。
そこから、すべてが少しずつ変わっていったのだ。

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