※この記事では、「色」や「空」といった『色即是空』の概念を扱っています。
※「色」と「空」、そして『色即是空』の意味をより深く知りたい方は、以下の記事で詳しく解説しています。
数字の世界に足を踏み入れる
田中慎一さん、保田隆明さんの著書『あわせて学ぶ会計&ファイナンス入門講座』を手にしたとき、最初は少し身構えた。
会計やファイナンスと聞くと、難解な専門用語や数字の羅列を思い浮かべ、どこか冷たく近寄りがたい印象を抱いていたからだ。
だが、ページをめくるごとにその印象は変わっていった。
著者たちの解説は非常に丁寧で、会計の基本である「貸借対照表」「損益計算書」「キャッシュフロー計算書」を、しっかり説明してくれる。
「企業がどんな資産を持ち、どんな負債を抱えているのか」
「その結果、利益はどう動き、現金の流れはどうなっているのか」
これらが明快に語られ、数字が単なる記号ではなく、企業という存在の呼吸や鼓動を映し出すものだと感じられるようになった。

貸借対照表──企業の現在地を映す鏡
資産、負債、純資産が並ぶ貸借対照表は、企業の「今」を映し出す鏡だ。
企業がどのような状態で立っているのかを静かに物語っている。
企業の姿勢や戦略が見える
例えば、資産の中に現金が多いのか、それとも固定資産が多いのか。
負債が膨らんでいるのか、それとも健全に抑えられているのか。
この一枚の表から、企業の姿勢や戦略が透けて見えてくる。

人にたとえると
人に例えるなら、それは「持ち物リスト」であり、「健康診断書」でもある。
数字を眺めながら、「この企業はどのように生きているのか」を想像するのは、まるで人の内面を探る旅のようだ。
損益計算書──営みの軌跡をたどる
一方、損益計算書は企業の「単年の営みの軌跡」を映す。
売上高から始まり、費用を差し引き、最終的に利益へと至る流れ。
そこには企業がどんな活動をして、どんな挑戦をしてきたのかが刻まれている。

数字の背後にある物語
利益が増えているとき、それは単なる数字の増加ではなく、現場で働く人々の努力や顧客の支持が反映されている証だ。
逆に赤字であれば、その背景には挑戦の失敗や環境の変化がある。
つまり損益計算書は、企業が歩んできた「物語」を数字で記録したものなのだ。
キャッシュフロー計算書──血流のように巡る現金
キャッシュフロー計算書は、企業にとっての「血流」を映している。
現金の流れを追う
どれだけの現金が事業から生まれ、どれだけ投資や財務活動に使われているのか。
数字を追うことで、企業がどんな方向に進もうとしているのかが見えてくる。
生き延びるための力
黒字倒産という言葉があるように、損益計算書で利益が出ていても、現金が足りなければ企業は続けられない。
キャッシュフローを理解することは、企業が生き延び、未来へ歩みを進める力を理解することに直結している。
家計管理での実践
本書を読んで得た知識は、仕事ではまだ十分に活かしきれてはいない。
だが、家計管理の場面ではすぐに役立った。
家計版・貸借対照表
毎月の収入と支出を整理し、資産と負債をリスト化して「家計版の貸借対照表」をつくってみる。
そのうえで、食費や光熱費といった日々の支出を「損益計算書」のように整理し、どの部分に改善余地があるかを考える。
投資という発想
すると不思議なことに、ただ節約するのではなく「何に投資するか」という発想が生まれてくる。
教育や健康、趣味や学びへの支出は、単なるコストではなく未来のリターンへとつながる。
数字を整理することで、家計がただの収支管理から「人生の戦略」へと姿を変えていった。

色即是空の視点を重ねる
ここで私が面白いと感じたのは、「色即是空」という仏教の教えを、会計の視点に重ねてみることだ。
関係性のなかにある意味
色即是空とは「形あるものは空であり、空だからこそ形を持つ」という真理を表している。
会計の数字もまた、独立した存在ではなく、関係性の中で意味を持つ。
資産と負債のバランス。
収益と費用のつり合い。
現金の流入と流出の調和。
どれも単独では意味をなさず、関係性のなかで初めて全体が理解できる。
この視点を持つと、会計三表の数字はまるで「空間に響く音楽」のように感じられ、企業という存在の奥行きや背景まで見えてくる。

数字は冷たくない
こうして学びを重ねるうちに、私は気づいた。
数字は決して冷たいものではない。
数字には人々の努力や選択が刻まれ、社会の動きが映し出されている。
企業の数字を読み解くことは、人間の営みを理解することにほかならない。
そして家計の数字を整理することは、自分自身の生き方を理解することにつながる。
数字は物語であり、数字は生きている。
学びのこれから
『あわせて学ぶ会計&ファイナンス入門講座』は、私にとって数字の世界と心の世界をつなぐ扉を開いてくれた。
これから先、私はさらに実践を重ねたい。
家計管理だけでなく、仕事や投資の場面でも会計の知識を活かし、数字の背後にある物語を読み解いていきたい。

そして、色即是空の視点を忘れずに、数字をただの数字としてではなく、「関係性の響き」として味わっていきたい。
そのとき初めて、数字は私の人生を導く羅針盤となる。
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